美容外科業界でしばしば話題になる裏留め埋没法。SNS等で、その危険性について発信している美容外科医も時々見かけますが、実際に裏留め埋没法が危険なのか解説します。
裏留め埋没法について
そもそも裏留め埋没法とはどんな埋没法?

裏留め埋没法(当院ではシークレット法が該当)は、まぶたの裏から糸を通して、皮膚表面に針を貫通させないで再び結膜側に糸を通して、裏側で糸を結んで、結び目を結膜に埋めてしまうという術式です。「結膜を経る」という意味で、「経結膜埋没法」、「経結膜埋没法重瞼術」などとも呼ばれています。
裏留めは表に針穴が無い分、腫れが目立ちにくいという特徴があります。SNS映えするので、「直後から腫れません」という謳い文句で広告を出したりSNSに投稿したりして、患者様をたくさん集めることに成功しているクリニックがいくつかあります。その代表格は〇〇美容外科です。しかし、実際は直後から腫れないということは無く、腫れが目立たない症例をSNSにアップしているに過ぎません。
裏留め自体は昔からある術式ではありますが、〇〇美容外科がSNSマーケティングに成功したことによって、二重整形の市場を一気に取っていったのです。そのあとに、〇△◇というクリニックが裏留め埋没法をメニューに取り入れSNSでバズらせることによって二重整形の市場を席巻していきました。そのような歴史的な背景があります。
裏留め埋没法が普及したことによる弊害
裏留め埋没法を受ける患者様が業界で一気に増加したことで、それに伴うトラブルも増えていきました。裏留めの修正を依頼する患者様が増えたことで、裏留め埋没法自体を行ったことが無いドクターのところに患者様が受診することもありました。原因として、〇〇美容外科が修正対応しないために「裏留め修正難民」が増えたからだと分析しています。なぜそのようなことが言えるかというと、私のところにも〇〇美容外科で裏留めした患者様が修正希望でたくさん来院しているからです。
裏留め埋没法を行っていないクリニックに患者様が抜糸希望で受診した場合、何が起きるでしょうか。ドクターが裏留め埋没法の抜糸の方法がわからないから、表留めと同じ要領で皮膚側から抜糸をしてしまうわけです。結び目は当然結膜側にあるわけですから、結果、抜糸が不十分で糸が残ってしまうことになります。糸が残ってしまうこと自体は大きな問題ではないのですが、結び目を探すために深追いして凄い出血したりとか、結膜側から抜糸をトライして筋肉が傷ついて目が上手く開かなくなってしまったり、抜糸に伴うトラブルもしばしば起きていたようです。
「裏留めが危険」という認識が広がった背景

裏留め埋没法を行っていない個人クリニックの先生が、「裏留めの抜糸のために全切開をしました」とか、「全切開したけど結び目が筋肉に食い込んでいて取れませんでした」とか、術中の写真をSNSなどにアップしてセンセーショナルな投稿をすることも散見されました。そもそも、裏留めの結び目は粘膜の直下にあるので、皮膚側からは取れないのが当たり前であり、裏留めの抜糸に全切開すること自体が間違いなのですが、これらの投稿は反響を呼ぶことになります。

美容整形系のアカウントの間でも話題となり、「裏留めは危険」、「裏留めは悪徳」みたいな空気がSNSで醸成されていったのです。業界でも裏留めをやっていないドクターを中心に、「裏留めは危険なんじゃないか」という風潮になっていきました。まるで、それが美容外科業界のコンセンサスのような発信をする美容外科医も現れました。

「裏留め」も「表留め」もたくさん行っている私の見解
勘違いして欲しくありませんが、私は裏留めを推奨しているドクターでわけではありません。表留めの方が、持続性・デザイン性の観点から優位性があり、表留めでも工夫すれば裏留めと大して腫れは変わらないので、表留めを受けることを推奨しています。それでも、少しでもダウンタイム中の腫れを小さくしたいという患者様のニーズにお応えするため、私は裏留めも行っていますし、特に前職のTCBにおいて裏留め埋没法の経験もかなり豊富です。
つまり、私は裏留めも表留めもかなり経験が豊富であり、そしてTCB時代から表留めを推奨しているドクターの代表格なのですが、その私が客観的に裏留めの危険性について考えても、裏留めでも抜糸は簡単にできるし、ちゃんとした手術をすれば表留めに比較して危険なことは特に無いのではないかと思っています。
世間で言われているのは、抜糸の困難さを理由に「裏留めはやめた方が良い」ということです。私自身、裏留めの抜糸もたくさん経験があり、裏留め埋没法の抜糸方法を学会で発表したり、症例数を集めて論文にしたりもしています。言ってみれば裏留め埋没法の抜糸に関しては私は権威だと思っています。その私の見解ですが、裏留めの抜糸は基本的に問題なくできます。ただ、ちゃんと「良い方法で手術された裏留め埋没法」でないと確かに抜糸が難しい場合があります。こう言ってしまうのもアレですが、〇〇美容外科で行われた裏留めの抜糸は難しいです。なぜなら結び目が一般的な裏留めより奥で、深い位置に埋没さえれていることがあるからです。過去に1例だけ〇〇美容外科の裏留めで抜糸できなかったことがあります。大方の糸は取れたのですが、結び目をこれ以上深追いするとリスクが高いので途中でやめたのです。そういう稀なケースもあるのですが、ほとんどにケースで完全に抜糸可能であり、裏留めの抜糸が表留めに比べて特段難しいということはありません。正しい手術が行われた場合、リスク、危険性は表留めと変わらないと考えています。
私の裏留め埋没法に関する学会発表と論文
- 第111回JSAS日本美容外科学会学術総会 2023年5月
経結膜的埋没法重瞼術の抜糸法の要点と成績
Key points and results of suture removal in transconjunctival double eyelid blepharoplasty - 第12回JAPSA日本美容医療学会2023年8月
経結膜的埋没法重瞼術の実際(手術手技の実演)
経結膜的埋没法重瞼術の抜⽷法の要点と成績 - 「経結膜的埋没法重瞼術の抜糸法の要点と成績」
安本匠, 村井瑞佳, 八ケ代康将, 寺西宏王, 青木剛志
日本美容外科学会誌 59(1): 36-39, 2024.
裏留め埋没法にまつわる患者様の勘違いと真実

よく勘違いしている方がいます、「表留めだと裏側に糸が無いのではないか」と。
まず、表留めであろうと、裏留めであろうと、まぶたの裏側から糸を通します。二重のラインができる原理は、裏と表の組織をくっつけるようにして糸で縫うから、皮膚が食い込んで二重のラインができるわけです。当然、裏側にも食い込みがありますし、裏側にも糸があるのです。裏留めと表留めの違いは、結び目が裏にあるか、表にあるかの違いなのです。

また、「裏留めだったらまぶたの裏がゴロゴロするのでは?」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。裏留めでも表留めでもゴロゴロする場合もあれば、しない場合もあります。手術が終わり、腫れが引いて数日たてばゴロゴロしなくなることがほとんどです。ゴロゴロする場合は糸の露出や糸にゴミがついている場合などが考えられますが、そのリスクは裏留めでも表留めでも変わりません。
「裏留めだと糸が裏から出てくるんじゃないか」と思う人もいるか知れませんが、表留めでも裏から糸が出る可能性もあるし、裏留めでも表から糸が出る可能性もあります。埋没法にあるリスクは裏留めでも表留めでもどちらにも等しくあるのです。ただそれらは高い確率で起きるものではありません。ちなみに、私が担当した患者様で過去に糸が出てきた方は過去におりません。
まとめ
裏留め埋没法が危険というのは誤解だが・・
もし、今まで「裏留め埋没法=危険」という思っていた方は、このコラムを読んでそれが誤解だったと理解して頂けたのではないでしょうか。上でも述べましたが、私は裏留め埋没法を推奨しているわけではなく、むしろ表留めを推奨しています。しかし、様々な患者様のニーズにお応えするために裏留め埋没法もかなり研究してきましたので、高いレベルで提供することができると自負しています。
また、裏留め埋没法の弊害は、裏留めを行ったことが無いドクターによる誤った抜糸法が行われてしまって、患者様が不利益を被っていることです。当院では、裏留め埋没法の抜糸もコンスタントに行っており、相談の多いテーマです。もし、裏留めの抜糸のドクター選びでお困りなら、お力になれると思いますので、ご相談頂ければと思います。
コラム著者

大手美容外科TCB東京中央美容外科で約10年間勤務。仙台駅前院院長、新宿三丁目院(TCB本院)院長・東京都エリア総括院長を歴任。TCBでは技術指導医部門のトップ・二重整形教育最高責任者として、指導的な役割を務めていた。YouTubeなどで美容整形に関する情報発信に積極的で、その内容がテレビ、雑誌、ネットニュースサイトなどに多数取り上げられた。豊富な症例実績を背景に10年間で培った技術を適正価格で提供する手術専門クリニックを2025年、地元仙台に開業した。
症例数:二重手術1万件以上、クマ取り手術5000件以上、糸リフト・切開リフト5000件以上、下肢静脈瘤3000件以上
資格:外科専門医、脈管専門医
学会発表・論文:経結膜的埋没法重瞼術の抜糸法の要点と成績
詳しい経歴・プロフィールなどはドクター紹介をご覧ください。