裏留め埋没法の抜糸は難しいとされていますが、正しく埋没された裏留め埋没法の抜糸は、そこまで難易度が高いものではありません。私は「裏留め埋没法の抜糸の要点や成績」について、学会発表や論文にまとめて、リスクが低く確実性の高い抜糸法の普及に努めて参りましたが、未だに誤った方法で抜糸をして糸が残ってしまったり、組織を損傷して眼瞼下垂などの有害事象を起こしてしまう例が後を絶ちません。
今回のコラムでは、裏留め埋没法の動画の切り抜き画像を用いながら、当院での抜糸法をわかりやすく解説しました。裏留め埋没法の抜糸を検討されている患者様や、美容外科医にとって参考になれば幸いです。
※動画が途中から始まっていますが、最初に表留めの抜糸を行っているためです。
手術
事前準備
問診
まず、二重埋没法の抜糸において重要なことは、患者様の過去の埋没歴・抜糸歴を詳しく聴取することです。①いつ(何年くらい前)、②どこのクリニックで、③何の術式を受けたか、④表留めなのか・裏留めなのか、⑤何本糸が埋まっているのか。これらの情報は、抜糸の成功率を高める上で、重要な情報です。患者様であれば過去に受けた手術の明細書などを保管しておき、万一抜糸が必要になった場合に担当医に見せられるように準備しておきましょう。
診察
診察によって皮膚側、粘膜側(眼瞼結膜側)で結び目の位置や透けてみる埋没糸を確認します。基本的には、この事前診察で結び目や糸が透けて見えれば抜糸可能、見えなければ抜糸不可能です。
粘膜の観察には、デマル氏開瞼鈎(かいけんこう)が適しています。デマル氏開瞼鈎を用いて、まぶたを翻転(ほんてん)すると粘膜表面が伸展され粘膜直下にある埋没糸が透見(とうけん)されやすくなります。
デマル氏開瞼鈎とまぶたの翻転

粘膜側に糸が透見できない場合、デマル氏開瞼鈎を用いずに再度まぶたを翻転させてみると、粘膜表面に陥凹(かんおう)している所見を認めるので、その直下に埋没糸が存在する可能性が高いです。
もし、粘膜側に埋没糸が確認できず粘膜の陥凹所見も無い場合、皮膚側で糸が透見できないか確認します。皮膚側に糸が透見できれば、その直上に小さな穴を開けて糸を切ることで埋没糸の張力が失われ、粘膜側に結び目が浮いてくることで同定しやすくなります。
患者様への説明
診察の結果、確実に同定できた埋没糸がどこに何本あるかを説明します。事前診察で埋没糸が同定できていれば、ほぼ100%抜糸可能です。ほぼと書いたのは、出血の影響で視野が悪くなった場合に無理して抜糸するよりも、日を改めて抜糸した方が安全だからです。
埋没糸を同定できていない場合でも、粘膜の陥凹などの部位に小さい穴を開けて抜糸を試みることも可能ですが、同定できている場合に比べると抜糸の成功率は下がります。
以上から、抜糸できない可能性についても患者様に説明して納得してもらった上で抜糸を始めることが重要です。
麻酔とマーキング
裏留め埋没法の抜糸は、まぶたをデマル氏開瞼鈎で翻転しながら行います。最短でも片側数分を要するため、患者様の疼痛に配慮してデマル氏開瞼鈎が当たるまぶたの中央付近に麻酔を行います。この際、示指と中指で皮膚を伸展して透見できる毛細血管を避けながら注射針をできるだけ浅く刺入することで、内出血のリスクを抑えています。
皮膚表面への麻酔

まぶたを翻転したら、助手にデマル氏開瞼鈎を把持(はじ)してもらいます。この際、10~20秒で粘膜が充血して埋没糸を透見することが難しくなりますので、結び目の位置を同定したら速やかに粘膜表面の水分をガーゼで拭き取り、水性マーカーで結び目の直上を丸くマーキングします。
結び目の位置を丸くマーキング

マーキング後に、粘膜側の麻酔をします。この際も、粘膜表面に見える毛細血管を避け、できるだけ針を浅く刺入します。内出血の予防のためです。予め粘膜には点眼麻酔をして、注射時の疼痛緩和に努めます。
マーキング部位への麻酔

なお、先に麻酔をしてから5~10分待つと、麻酔に添加されているエピネフリンの作用で血管が収縮して粘膜は真っ白になります。そうすると、埋没糸が透見しやすくなる場合がありますが、逆に粘膜との距離が離れてしまい透見しにくくなる場合もありますから、私はマーキングをしてから麻酔をするようにしています。
また、やはり麻酔をしてから10分ほど待った方が「血管が収縮して切開した際に出血しにくくなる」と言われていますが、もし麻酔の注射によって出血が起きていた場合に、切開する頃には出血で視野が相当悪くなってしまうので、埋没糸を探すのが困難になります。従って、麻酔後はできるだけ早く切開することを推奨します。
切開
続いて切開についてです。マーキング部位を11番メスを用いて1.5~2ミリ縦切開します。縦切開するのは、毛細血管が縦走しているので横切開すると出血のリスクが高くなるためです。メスの刃を上に向け、刃の先端を粘膜と平行に刺して跳ね上げるのがコツです。こうすることで、粘膜の薄皮1枚だけを切ることができ、出血や組織損傷、埋没糸の損傷のリスクを抑えることができます。
出血を抑える様々な工夫をしているのですが、それでも切開すると多少の出血はあります。助手にデマル氏開瞼鈎を少し強めに引き上げてもらうことで皮膚側からの圧迫止血になりますが、不十分な場合は粘膜側から圧迫止血を追加したり、ガーゼで出血をコントロールしながら視野を確保します。熱による組織損傷のリスクを抑えるため、バイポーラー等での止血は最終手段とします。
マーキング部位を切開

結び目(糸玉)の剥離と抜糸
粘膜を切開すると、直下に埋没糸の結び目(糸玉)が現れます。結び目は線維性の結合組織の被膜に包まれており、被膜を剥離して結び目を単離する必要があります。剥離操作は先端の細い眼科用鑷子(せっし)2本を使用します。埋没糸自体を鑷子で把持してしまうと、糸が切れてしまう可能性があるため、できるだけ結び目を把持しつつ、もう1本の鑷子で被膜を剝がしていきます。
結び目の剥離

被膜が剥がれて結び目が単離されると、結び目を引っ張ることでそれにつながった2本の糸が確認できます。そのうちの1本を眼科用剪刃(せんとう)で切断します。そのまま結び目を引っ張ると、スルスルと抵抗なく完全な抜糸が可能です。抜糸できた糸は患者様に手術終了後に確認してもらいます。
※既に、糸が切れてしまっている場合は、結び目を引っ張るだけで抜糸ができてしまいます。
結び目につながる2本の糸

2本の糸のうち1本の切断する

埋没糸を引っ張ると抜糸完了

注意点
結び目が見つからない場合
①結び目も無いし、糸も無い
結び目や糸がある部位を事前診察でチェックして、マーキングもその部位に行い、直上で切開すれば必ず糸が見つかるはずです。1か所5分間探しても見つからなければ、マーキングが間違えているか、そもそも糸だと思ったものが糸ではなかった可能性が高いです。深追いはせずに、コンディションを整えて後日に改めて診察から再挑戦しましょう。
もし、事前診察で皮膚側に糸が見えていたら、その直上で小さく切開して糸を切断すると、粘膜側に糸が浮いてくる可能性もあります。
②結び目は無いが、糸がある
この場合は、結び目を透見できなかったものの、糸のみを透見できたため、その直上を切開して糸のみが見つかったケースです。糸さえ見つかれば、糸を追って剥離していけば結び目に辿り着くことができます。糸を追う過程では切開創は広げず、新たに別の場所を切開した方が安全です。新たに切開する場所は、糸を引っ張って粘膜が陥凹した場所です。そこに結び目がある可能性が高いです。
もし、糸を追って行っても結び目を見つけられなかった場合、眼瞼結膜の直下ではなく、より深い層に結び目が迷入している可能性があります。無理に深追いした場合に挙筋等を損傷するリスクがあるため、埋没糸のみを可能な限り長く切離して抜糸終了とします。その際、「結び目を深追いするとリスクが高いため、糸のみを除去したこと」を患者様に説明します。
やってはいけないこと
①皮膚側からのアプローチ
裏留め埋没法は、眼瞼結膜の直下に結び目があります。結び目を皮膚側から除去すことはできません。従って、第1選択は粘膜側からのアプローチとなります。前述のように、粘膜側に糸玉や糸が全く見つからない場合に限り、皮膚側から補助的にアプローチすることはあっても、最初から皮膚を切開することは患者様に無用な侵襲を与えていることになるので避けましょう。
②皮膚大切開による抜糸
裏留め埋没法の抜糸が難しいからという理由で、皮膚を大きく切開して糸を探しに行くドクターがいます。これも、抜糸をする目的であれば明らかな過大侵襲ですし、結び目の残存を前提としているので絶対にやめましょう。
もし、二重全切開手術を受ける過程で裏留め埋没法の抜糸をするとしても、粘膜側から抜糸をしてから二重全切開をする必要があります。もし、全切開をしながら抜糸をするのであれば、やはり結び目が残存してしまうためです。逆に結び目を皮膚側から追っていくとなると、最終的に粘膜まで到達するわけですから、必ず挙筋を損傷してしまいます。
③眼球結膜大切開による抜糸
手術方法でも示したように抜糸の際行う切開は、粘膜の薄皮1枚を1.5~2ミリ程度切る小切開です。剥離の過程で多少広がっても、このくらいであれば組織損傷は最小限で済みます。
糸や糸玉が見つからないからと言って、大きく粘膜を切開したり、深追いして挙筋内を剥離していくような操作は慎むべきです。これらの操作は、医原性眼瞼下垂のリスクがあります。
抜糸が困難な場合は?
もし、抜糸を試みても埋没糸が見つからない場合は、深追いせず後日コンディションを整えてから再挑戦するのが基本です。それでも難しい場合は、裏留め埋没法の抜糸の経験が豊富な医師に紹介しましょう。
コラム著者

大手美容外科TCB東京中央美容外科で約10年間勤務。仙台駅前院院長、新宿三丁目院(TCB本院)院長・東京都エリア総括院長を歴任。TCBでは技術指導医部門のトップ・二重整形教育最高責任者として、指導的な役割を務めていた。YouTubeなどで美容整形に関する情報発信に積極的で、その内容がテレビ、雑誌、ネットニュースサイトなどに多数取り上げられた。豊富な症例実績を背景に10年間で培った技術を適正価格で提供する手術専門クリニックを2025年、地元仙台に開業した。
症例数:二重手術1万件以上、クマ取り手術5000件以上、糸リフト・切開リフト5000件以上、下肢静脈瘤3000件以上
資格:外科専門医、脈管専門医
学会発表・論文:経結膜的埋没法重瞼術の抜糸法の要点と成績
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