SNSでボトックス注射やヒアルロン酸注射を看護師が行っているクリニックがあるということで話題になっていますね。今回のコラムでは、この件に関して、美容外科医としての見解を述べたいと思います。
看護師がボトックス注射やヒアルロン酸注射を打つのはダメなの?
看護師が注射することの何が問題なの?
まず、看護師がボトックスやヒアルロン酸を注射することの何が問題なのでしょうか?「看護師さんって、普通に点滴で針を刺したり、注射で薬剤を注入したりするから問題ないのでは?」と思っている方も多いのではないでしょうか?
ボトックスやヒアルロン酸注射に限らず、過去に問題となった事例も踏まえて解説していきます。
過去の摘発事例
過去に、看護師が摘発されたケースとして以下の2つのパターンが挙げられます。
①看護師のみが運営しているサロンや闇営業のクリニック
②保健所に届け出た正式なクリニックの体裁だが医師が不在
それぞれのパターンについて解説していきます。
①看護師のみが運営しているサロンや闇営業のクリニック

まず、①についてですが、例えば、エステサロンなどを看護師が開業してそこで肌治療などの一環として、ダーマペン、水光注射、レーザートーニングなどを行っていた事例があります。ダーマペンや水光注射、レーザーの照射は医療行為であり、看護師の資格があってもサロンで行うことはできません。あるいは、マンションの一室などで外国人が外国人を対象にしてヒアルロン酸注射や二重手術などを行っていた事例があります。いずれのケースでも、医師法第17条違反で摘発されています。
医師法第17条では、 「医師でなければ、医業をなしてはならない。」とされており、違反すると、「三年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と規定されています。
つまり、看護師の資格があるかどうかは関係なく、医師ではない者が医業を行うこと自体が禁止されているので、医師がいない施設で注射などの医療行為を行うと法律で罰せられます。同様に、レーザー脱毛や、HIFU、アートメイクなども医療行為なので看護師だけで行うことはできません。
②保健所に届け出た正式なクリニックの体裁だが医師が不在

2つ目は、医師が開設した正式なクリニック内ではあるものの、医師が不在時に、看護師が医療行為を行ったケースです。
保健師助産師看護師法第37条には、「保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。」とされています。
つまり、「看護師は、医師から指示があった場合以外に医療行為を行ってはならない」と規定されています。正式なクリニック内であっても、医師が不在であったり、医師の指示が無く医療行為を行った場合は罰せられるのです。過去に、医師が不在のクリニックでレーザー脱毛を行ったり、薬を処方して摘発された事例があります。
絶対的医行為と相対的医行為

今回、SNSで話題となっているのは「美容クリニックで医師が常駐しているが、実際にボトックスやヒアルロン酸を注射するのが看護師」という事例です。
私が知っている限りこのような例は過去になく、業界ではボトックスやヒアルロン酸は医師が施術するものという暗黙の了解があるため、驚きや批判の声が上がって話題になっているのです。もちろん、製造メーカーも医師が施術するのを前提に講習や施術資格を与えていますが、それ自体には法的な根拠があるわけではありません。
法的には、医療行為は絶対的医行為と、相対的医行為に分類され、例えば診断、薬の処方、手術などは絶対的医行為であり、医師の指示があっても看護師は行うことができません。一方で、採血、点滴、薬剤の投与などは相対的医行為とされ、医師の指示があれば看護師が単独で行うことができます。
合法なら看護師にやってもらった方が儲かるが・・

ボトックスやヒアルロン酸注射は薬剤の投与であり、相対的医療行為に当たるので、法的には看護師が行っても問題ないと解釈できます。しかし、これが許されるなら「よし、その手があったか!うちも看護師に注射してもらおう」というクリニックが他にどんどん出てきてもおかしくないですよね。なぜ、当該のクリニックが看護師に注射をさせているかというと、「簡単に言えばその方が儲かるから」でしょう。

注射などの細々して単価の低い施術を看護師に任せて、医師は単価の高い手術に集中した方が経営的には理にかなっています。医師1人で回せない状況であれば、医師をもう1人雇用するより看護師にやってもらった方が人件費は安く済みますからね。1ヶ月もあれば看護師はボトックスやヒアルロン酸注射の手技を習得すること自体は可能だと思います。習熟すれば、医師が行う場合と仕上がりに関しては大差はないでしょう。
それならば、大手美容外科はこぞって看護師にボトックスやヒアルロン酸、脂肪溶解注射などを教育して、余った医師を解雇すればもっと利益を出すとことができます。
やはり法的な問題がありそう

ただ、ここで忘れてはならないのが「医師が指示した場合に限り、看護師は医療行為ができる」という点です。通常、医師が看護師に薬剤の投与を指示する場合、薬剤名、投与経路、投与時間、投与量を明確に指示します。果たして、ボトックスやヒアルロン酸でそれが可能でしょうか。
例えば、「涙袋に片側0.2ccヒアルロン酸注射せよ」という指示を行ったとして、実際入れてみたら少し左右差があるから少し追加するとか、患者様と確認したら「もう少し膨らませたい」から、さらに全体に追加注入するという様なことはよくあります。こういう場合に、さらに涙袋の状態を医師が確認して医師の追加指示があるかというと実際にはそういう運用はしてないと思います。そんな面倒なことをするなら、最初から医師が注入した方が早いからです。看護師にやらせる理由は、その間に医師が違うことをして回転をあげるためなので、看護師がヒアルロン酸やボトックス注射をするのを見ながら逐一指示を追加するなんてことは行うはずが無いのです。
レーザー脱毛ですら、看護師に行わせる場合に毎回肌の状態をチェックして出力の指示などを求められる時代です。ましてデザイン性が問われるヒアルロン酸やボトックス注射で、看護師が医師の細かい指示無く自分の判断で注射しているとしたら、やはり法的に問題があるのではないかというのが、私の見解です。
グレーな案件であり、即摘発とはならないが・・
過去の、摘発案件などを見ると、法的にグレーなところは基本的に野放しになっていて有害事象が出た段階で逮捕や行政処分に踏み切るというのがお決まりのパターンなので、今回も何か起きない限りそのままという可能性も考えられます。そうすると、マネするクリニックが出てくるでしょうし、「今日は注射の予約しかないからドクターは出勤しない」なんてことも起きるでしょう。そういうヤバい考えの人が多い業界であり、結果的に不利益を被るのはいつも患者様です。
まとめ
患者様もスタッフも自己防衛するしかない
患者様ができることは、安いからという理由でこういうクリニックには行かないこと、看護師の方は何かあった場合に最悪逮捕される可能性もあるので、こういうクリニックで働かないことです。そうすればこういうヤバい美容外科クリニックが自然に駆逐されていくことでしょう。
と言っても、これがやばいクリニックなんだということに、患者様も働いているスタッフも気づいていないということもあるでしょうから、美容外科医として引き続きこういう案件があれば注意喚起いていきたいと思います。
コラム著者

大手美容外科TCB東京中央美容外科で約10年間勤務。仙台駅前院院長、新宿三丁目院(TCB本院)院長・東京都エリア総括院長を歴任。TCBでは技術指導医部門のトップ・二重整形教育最高責任者として、指導的な役割を務めていた。YouTubeなどで美容整形に関する情報発信に積極的で、その内容がテレビ、雑誌、ネットニュースサイトなどに多数取り上げられた。豊富な症例実績を背景に10年間で培った技術を適正価格で提供する手術専門クリニックを2025年、地元仙台に開業した。
症例数:二重手術1万件以上、クマ取り手術5000件以上、糸リフト・切開リフト5000件以上、下肢静脈瘤3000件以上
資格:外科専門医、脈管専門医
学会発表・論文:経結膜的埋没法重瞼術の抜糸法の要点と成績
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